ナイショの秘密vv
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


  ―― 大掃除の最中に、
    ああ困ったな、あんなところへ鍵を落としちゃった。

月に一度は、特別担当範囲のお掃除を念入りにして、
シスターにチェックしていただくのが、
この女学園のお掃除当番への決まりごとの内の一つ。
ずっとずっとの代々続いて来たことだそうで、
だからこそ、風格のある本館とか、音楽堂や温室といった特別棟とか、
結構な歴史のある建物のはずが、綺麗なままで引き継がれてもいるわけで。

 「さぁ、様、私たちも頑張りましょう。」
 「ええ。」

初等科や中等部時代にも、
お掃除の手順はシスターから学んで来た。
ホウキがけや雑巾がけのコツから、
学年が上がるにつれ、
隅っこには窓の桟にはと、
色々な場所に合わせた工夫も教わって来た蓄積は、
この女学園の生徒には もはや常識レベルの心掛け。
制服を汚さないようにという、
膝下丈のエプロンドレスをまとい、
私たちが今月の担当、中庭温室のテラス部分のお掃除を始める。
中庭温室は名前のそのまま、
本館中庭にある鳥籠の形のアンティークな温室で、
内部に中二階が設けられていて、
テラスのようになっているのがちょっと画期的。
つるバラのアーチを、
見上げるばかりじゃあなくの、高みから間近に見ることも出来るし、
アールデコ調の装飾が優雅なので、
学園祭や五月祭などでは、
ここも女神や女王のお披露目散歩のコースになっているほどで。

 「五月祭の女神と言えば、やはり草野様よねvv」
 「そうそう、白百合様vv」

隋臣役の紅ばら様やひなげし様も麗しくて、
このテラスに上がられたおりは、
丁度若葉の萌え初めだったので。
空も望める中に白いドレスが良く映えていらしたと、
ホントはいけないことながら、
ついついうっとりと過日を思い出し、
お喋りしてしまうお嬢様たちだったのだが。
そこは良くも悪くも手慣れておいでのお掃除で、

 「さあ、手摺りも台座もぴかぴかですわよ。」
 「ステップの隅々も埃ひとつありません。」

あまりに高いところは業者さん任せだが、
それでも届く限りの窓という窓がそれは丁寧に磨き立てられており、

 「では、私シスターを呼んで参りますわね。」
 「わたしはバケツを片付けて来ます。」

5人ほどのグループだった中、
道具のお片付けやら換気用に開けた天窓を閉じに行くやら、
お掃除が完了してもなお、
それぞれが各々に務めを見つけ、それへと駆けてゆくほど、
どなたもが働き者さんたちだったのだけれど。

 「えっと。」

その場へ居残ったさんはというと、
お花のお手入れに使う花鋏や移植ごてを仕舞っている棚の中を点検し、
お道具の数と汚れていないかを確かめてから、
よしよしと頷きつつ、
こちらも格調高いアンティークの整理ダンスを
ぱたりと閉じたまでは良かったのだが、

 「あ……。」

白くてお行儀のいいお手から、一体どうした弾みやら、
使い込まれて黒っぽいつやの出た、
それだけでも骨董品として価値のありそうな、
センスのいいデザインの鍵が。
するりと逃げてのあっと言う間に、
テラスの真下へ落ちてしまったものだから。

 「あ、あ、どうしましょう。」

鍵は掛けたが、それでいいというものじゃあない。
セキュリティの重要度がどうとかいう次元の話じゃなくて、
管理を任されたものへの責任を考えてのこと。
皆様が大事にしている場所にかかわる大切なもの、
勿論のこと故意にというつもりはないが、うっかりでは通らぬ話。
まして、万が一にも失くしたじゃあ済まないぞという、
気が遠くなりそうな絶望感が襲い来るのを、それでも懸命に追いやると。
制服の上に重ねた、真っ白いエプロンドレスの胸当てへ、
可憐な手を伏せての押さえつつ、
テラスと足元の花壇の部分をつなぐ、ゆるやかな螺旋階段を駆け降りた様。
そこには、丁度テラスまで健やかに伸びたつるバラの根方があり、
その周縁へは別の種類の野ばらが植えられていて、

 「……あ、痛っ。」

照明を灯してはないものだから、見通しも悪い上、
野ばらや つるバラでも薔薇は薔薇、
茎や蔓にはあちこちに鋭いトゲもある。
焦りもあってのこと、見えない根元へ無造作に手を入れかけて、
だがすぐにも、抵抗が襲い掛かっての、
小さな御手にチクチクリという痛さが走る。
反射的に引っ込めた手には、赤い筋が走っており、

 「ああ、いけません。」

痛さに招かれ、つい上から押さえかかった手を取られ、
え?と驚いたさんへ、

 「猫の爪と薔薇の棘での傷はね、
  小さくとも雑菌が付いてる場合があるから、
  丁寧に扱わねばなりませぬ。」

いつの間にこうまで傍へいらしていた人があったものか、
全然気がつかなんだのは、それほど動転していたからか。
声や足音、制服のスカートをさばく物音も、
何も聞こえはしなかったし感じられなかったけれど。
はっとしてお顔を上げたさんの手を取っていらしたのは、
今日のお外のお空に負けぬ、澄み渡った水色をたたえた双眸の麗しい、

 「白百合様…?」

思わずのこと通り名を呟いてしまったさんへ、
にこりと微笑った細おもてのお姉様は、
確か剣道部の部長様でもあると聞くのに、白い手の何とも優雅で柔らかいこと。
そこへ、

 「シチさん? どうしましたか…あら。」

はたはたと、そちら様もやはりあまり気配は立てずの静かに速やかに、
駆け寄って来られたのが、
こちらの白百合様とは仲良しで有名な、やはり二年のひなげし様こと林田様で。

 「かわいそうに棘でやられましたね、お待ちなさい。」

提げて来たレッスンバッグを足元へ置くと、
中を覗いての巾着袋を取り出しなさる。

 「間が良いですよ。
  ほんのさっき同じように怪我をなさった人がいて、
  後々もお塗りなさいと消毒薬を分けていただいたばかり。」

怪我と言ってもほんの掠めた程度でしたがと、
ちょっと慌てて付け足したのは。
その対象ご本人なのだろう、表情を動かさぬまま、
ポスターか何か、筒状に丸めた上質紙でぽこりと、
屈んだばかりのひなげしさんの頭を軽く叩いたお人が、
更なる後追いとしてお顔を見せたからで。
天蓋のある屋内の薄暗さの中、
だのに彼女自身が光を飲んだ存在であるかのごとく、
軽やかな金の髪や白い頬を映えさせておいでなそのお人こそ、

 「べ、紅ばら様。」

瞬く間とは正にこのこと、
あれよあれよという間にも、
学園の憧れ、三華様揃い踏みになったことへ
最初の事情も忘れ、驚くばかりだったさんだったが、

 「どうかされました? 様。」
 「おや。シチさん、御存知の方でしたか?」
 「一子と同じクラスの。」
 「あらあら、久蔵殿まで。」
 「といいますか、呼び捨てはいけません、久蔵殿。」

うあ、白百合様や紅ばら様に見知っていただけていたなんて、と。

 「〜〜〜〜〜。////////」

ますますのこと、お顔が真っ赤になったのだけれど。

 「ちょっと我慢なさってね。」
 「あ…痛っ。」

ほややんとしていたせいもあり、
正に不意打ちで ひなげし様から消毒薬を染ませたガーゼを当てられて、
押さえることも叶わなかった悲鳴が出たのへ、

 「……っ。」

細い眉を我がことのようにしかめた紅ばら様が、
やはり屈み込むとさんの肩に腕を回して差し上げて。
そのまま“よしよし”と背中や髪を撫でてくださったものだから。

 「え? え? え?////////」

オレンジの香りがする優しい抱擁へ、
何なになにこれと、
お顔がますます真っ赤になったさんは知らなかったこと。

 「ああ、この鍵を落とされたのですね。」

それもひなげし様がお持ちだったペンライトで茂みを照らすと、
落ち葉拾いに使うものでごめんなさいと、
火ばさみを使って手際よく拾い上げてくださったのが白百合様で。
念のためにと包帯を巻くところまでのお手当てをして下さった、
下級生想いの三華様だったのだが、

 「………もしかしてさんが鍵を落としたのって。」
 「そこまで強力なそれじゃあ ありませんてば。」

紅ばら様こと久蔵殿がうっかり同じ場所へ手を突っ込んだのも、
そこに強力な電気磁石が仕込まれてあったのへ、
それとは知らず、髪どめのバレッタを引ったくられたから。
植物の生長を促すのに効果があるというクラシックを流すのに、
特別製のスピーカーを設置していたそうで。

 『人には聞こえないけれど、
  植物には効果のある波長というのがあるんですってば。』

と、ひなげしさんは言ってたけれど、

 「こうまで色々と余計なものを引き付けてしまうようでは。」
 「撤去だな。」
 「そんなぁ〜。」

終しまいには、温室内の砂鉄全部を集めてしまうぞ。
それだと土の成分比が狂ってしまうから、やっぱり問題でしょうよ…と。
お友達からのダメ出しが下されてしまい。
こっそり実験中だった、成功したなら美味しいお芋を育てよう大作戦は、
その出発地点で頓挫したのでありました。(おいおい)





  ●おまけ●


   それでは最後に、島田警部補から

   「お主が七郎次と同じ学園に通う殿か。」

   じゃじゃ馬が騒ぎを起こしては迷惑をかけておらぬか?
   おお、手を傷めたか。どうかお大事になされよ?




      〜Fine〜  2012.06.12.


  *別のお部屋で久し振りにドリーム小説を書き始めたので、
   ついでというと失礼ながら、
   こちらの顔触れでも書けないかと試してみました。
   島田一族の任務に守られる姫様がよかったですか?
   勘兵衛様が出て来るより先に、良親さんがちょっかいかけますぜ?
(笑)
   賞金稼ぎのお二人に護衛を頼みますか?
   紅眸の若いのに焼きもち妬かれるのがオチですよ?
(苦笑)
   メインクーンさんをじゃらしてみたかったですか?
   親ばか夫婦にめいっぱい惚気られますぜ?
(大笑)
   神無村で働きたかったですか?
   今なら金髪母子の鑑賞会に参加できますが。(…何やそれ)


    ……リクエストありましたなら、
    また頑張ってみますね。(こらこら)

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